米アカデミー賞を主催する映画芸術科学アカデミーは23日、第96回同賞のノミネートを発表し、役所広司(68)の主演映画「PERFECT DAYS」(ヴィム・ヴェンダース監督)が、国際長編映画賞(旧外国語映画賞)にノミネートされた。
役所は同作で5月に世界3大映画祭の1つ、カンヌ映画祭(フランス)男優賞を受賞。「PERFECT DAYS」は、同9月4日にアカデミー賞国際長編映画賞日本代表に選ばれ、同12月21日(日本時間22日)には同賞のショートリストに入った。同23日に都内で行われた公開記念舞台あいさつで、役所は「そうですね…日本代表と言うとね、WBCじゃないですけど、選手代表って感じですね」と、野球に例えて誇らしいことであると強調。1次審査を勝ち抜き、ノミネート入りに前進したことに「ここまで来ましたけど、あと1歩、前に進めるといいなぁと思っています」と笑みを浮かべた。
またドイツのヴィム・ヴェンダース監督(78)もビデオレターも寄せ、その中で役所を「この地球上で最も偉大な俳優のひとり、役所広司さんと東京で映画を一緒につくるということは、素晴らしく美しい贈り物のような出来事でした」とたたえた。また「皆さんもぜひ、世界中の人々と同じように平山さんとの時間を楽しんでください私は平山さんの日々の一部になれたこと、そして、この映画がアカデミー賞の日本代表に選んでもらえたんです。とてもうれしく思っています。みなさんもこの先の幸運をぜひ祈っていてください。バイバイ」と、アカデミー賞日本代表入りを改めて喜んでいた。
「PERFECT DAYS」は、22年5月に東京で開かれた会見で製作が発表され、ヴェンダース監督とともに役所が主演俳優として登壇した。同監督は東京・渋谷区で20年から行われている、世界的に活躍する16人の建築家やクリエイターが個性を発揮して、同区内17カ所の公共トイレを新たなデザインで改修するプロジェクト「THE TOKYO TOILET」のトイレを舞台に製作。製作にあたり、11年ぶりに来日してシナリオハンティングなどを行い、自ら脚本も担当した。撮影は全て東京で行い、役所は渋谷でトイレの清掃員として働く平山を演じた。
製作国は日本で、「ユニクロ」を中心とした企業グループファーストリテイリングの柳井正代表取締役会長兼社長の次男・柳井康治取締役がプロデューサーを務めた。同氏が個人プロジェクトとして21年に立ち上げた、有限会社MASTER MINDが企画発案、出資、製作、プロデュースを手がけた。同氏にとっても映画初プロデュースとなった作品で、いきなりカンヌ映画祭男優賞を獲得。また共同脚本・プロデュースに名を連ねる高崎卓馬氏は、電通グループグロースオフィサーでJR東日本「行くぜ、東北」などを手がけたクリエーティブディレクター。一方で小説家の顔も持ち、映画、ドラマの脚本も多数、手がけてきた。映画の脚本は2009年(平21)の岡田将生の主演映画「ホノカアボーイ」(真田敦監督)以来2作目。
役所は、5月27日(日本時間28日)にフランスで行われたカンヌ映画祭授賞式で男優賞を受賞し、6月13日に都内の日本記者クラブで会見を開いた。席上で「『THE TOKYO TOILET』プロジェクトをやっている柳井さんが、最初はショートフィルムというイメージがあったんですけど、ヴェンダース監督が入って長編となった」と、当初は短編映画の企画だったと明かした。
その上で「今までやったことのない映画、役を与えてもらって、しかも監督がヴェンダース…夢のような仕事でした。なお、カンヌでコンペティションに選ばれ、大きなおまけに主演男優賞というものをいただきました」と続けた。そして「この映画、まだご覧になっていないと思いますけど…映画の力を感じさせる映画になっていると思います。見る機会が来たら、応援してください」と呼びかけた。
◆「Perfect Days」東京・渋谷でトイレの清掃員として働く平山(役所広司)は、淡々と過ぎていく日々に満足している。毎日を同じように繰り返しているように見えるが、彼にとってはそうではなく、常に新鮮で小さな喜びに満ちた、まるで風に揺れる木のような人生である。昔から聴き続けている音楽と、休日のたびに買う古本の文庫を読みふけるのが喜びで、いつも持ち歩く小さなフィルムのカメラで木々を撮る。平山は木が好きで、自分を重ねているのかもしれない。ある時、平山は思いがけない再会をし、それが彼の過去に少しずつ光を当てていく。
平山のもとに突然、訪れる、めいを中野有紗、平山と奇妙なつながりを持つホームレスを田中泯が演じた。また柄本時生が平山の同僚の清掃員を、そのガールフレンドをアオイヤマダが演じた。平山が休日に訪れる居酒屋のママを歌手の石川さゆりが演じた。石川が女優として映画に出演するのは、1979年(昭54)の映画「トラック野郎・故郷特急便」以来、44年ぶりとなる。ママの元夫を三浦友和が、平山の妹を麻生祐未が演じた。