いまから約80年前、第二次世界大戦が終わる少し前の激動に時代を背景に、黒柳が自身の幼少期を描いた本作。トットちゃんの愉快な日常を通して見えてくる日々のささやかな幸せ、個性の豊かさ、恩師からの教え、家族や友人への深い愛情や平和な日々に迫ってくる戦争の影などを描いた原作は、1981年に出版され日本累計発行部数800万部を突破。さらに20以上の言語でも出版され、世界累計発行部数2500万部を突破している大ベストセラーだ。
出版から40年の時を経て、映画が公開される。黒柳は「これは私の本当の話」と原作を紹介しつつ、「ベストセラーになりまして、たくさんの映画のご要望がありました。テレビドラマや舞台、ミュージカルなどいろいろなものがありましたが、皆さんが読んでくださった、皆さんのなかに描かれた独特なトットちゃんができているほうがいいと思ったので、全部お断りしてきました」と様々なオファーがあったものの、すべて断ってきたと告白。「いまごろになって、いろいろ考えて。もしかしたら映画にしておいたほうがいいんじゃないかと思いました。映画に作っていただければと思っていたところに、監督から『アニメでやったらどうか』というご要望がありました」といいタイミングで映画化の話が舞い込んだそうで、企画書も「本当に丁寧に描かれていた」と感激しきり。
企画書が持ち込まれてから約7年が経ったというが、完成作を観て「泣いた。いろいろなことが思い出された」と打ち明けた黒柳は、「当時の世の中のこと、当時のトットちゃんの学校も、自分がいた時のことのように描かれていた。お友だちも、あの当時のお友だちのようでした。終わった時には涙が出ました」としみじみ。キャスト陣の演技も称えながら「監督が、7年かけて作ってくださった。一つの作品を7年もかけて。それは並大抵のことではなかったと思います。心からお礼を申し上げます」とお礼を述べ、「皆さまがどんなふうに感じるのかワクワクしています」と会場を見渡した。
八鍬監督は、「いま世界中で人種や宗教をめぐって戦争が起きていて、たくさんの難民方や犠牲者の方が出ています」と口火を切り、「遠い国の出来事のように感じるかもしれませんが、78年前は日本も同じように戦争をしていました。『窓ぎわのトットちゃん』には、戦争中でも思いやりの心を忘れずに生きていた人々が描かれていて。その姿を映像化して世界に届けることができれば、少しでも明るい未来につながるんじゃないかと思って企画しました」といまの時代に本作を送りだす意味を噛み締めていた。
黒柳自身であるトットちゃんを演じた大野は「5歳の時に女優さんとアナウンサーになりたいと思って、最初は本当になれるかな?と思っていたんですが、その時に原作の本を読ませていただいて、トットちゃんも新しい環境のなかで頑張って、それがいまの徹子さんになっているんだなと思って、すごく勇気をもらいました」とトットちゃんに励まされた経験があったそう。トットちゃんとは「全部が似ている」と笑顔を見せ、「私もおしゃべりが大好き。いろいろなことに興味があるところも似ている」と声を弾ませると、黒柳も「かわいい」と目尻を下げていた。
トモエ学園でトットちゃんの担任の大石先生を演じたのが、滝沢だ。黒柳について「憧れの人。妖精のような方」だと心を込めた滝沢は、「自分がずっと家族で見ていた黒柳徹子さん。その人生のなかに飛び込ませていただくチャンスをもらえたことは、本当にうれしかった。どうやったら自分みたいな人間がこの世界に入れるかなと思った。自分の声で徹子さんの小学校時代を絶対に汚したくないし、自分のせいでなにかあったら嫌だと思ったので、いろいろと気をつけようと思いました」とプレッシャーもあった様子。黒柳は「滝沢さんは、本当に純粋で、あまりいないような女の子。ちょっと形容し難い」と稀有な存在だと話し、滝沢は「(その言葉を)お返しします」と応えるなど、息ぴったりの様子を見せていた。
取材・文/成田おり枝