国境も言葉も超える 民謡ユニット「MIKAGE PROJECT」

国境も言葉も超える 民謡ユニット「MIKAGE PROJECT」

ワークショップに参加した、タイのチュラロンコン大学のカムコム・ポーンプラシット教授(中央)と学生ら=バンコク芸術文化センターで10月21日、濱田元子撮影

(毎日新聞)

 日本各地の民謡を次世代に、そして世界にも伝えたい――。現代の感覚でアップデートし、民謡の魅力を追求するユニット「MIKAGE PROJECT(ミカゲプロジェクト)」。メンバーは、佐藤公基さん(尺八・篠笛=しのぶえ=など)、浅野祥さん(津軽三味線・唄)、本間貴士さん(二十五弦箏=こと=・十七弦箏)という邦楽器の若き実力派3人だ。日本と東南アジア諸国連合(ASEAN)の友好協力50周年を機に、10月に国際交流基金によるASEANツアーとしてタイとマレーシアで初の海外公演に挑み、現地の民俗音楽やアーティストともコラボレーションした。バンコク公演を取材する中で見えたのは、国境を超えて響き合う、土に根ざした音楽や音の力だ。【濱田元子】

 ◇10月にタイなどで公演

 「タイに来てから毎日、タイのお米をめちゃくちゃおいしくいただいています。日本とタイにとって豊かな年になりますように」

 10月22日夜、バンコク中心部サイアムにあるイベントスペース「リド・コネクト」で行われた公演。カーテンコールに応えて再登場すると、同じく米を主食とする日本から来た浅野さんの言葉に続いて「豊年こいこい節」が演奏された。田植えの後に豊作を願う宮城県民謡だ。

 ファンクなビートを刻む浅野さんの津軽三味線に始まり、グルーブ感のある佐藤さんの尺八、表現力豊かな音色に神秘的な空間が広がる本間さんの二十五弦箏が加わり、ハーモニーを奏でる。

 「♪豊年万作サッサトコイコイ〜」という歌はラテンのリズムもミックスされ、多数を占めたタイの観客も自然に体を揺らす。喝采のうちに公演を締めくくった。

 ◇若き実力者3人 民謡に新風

 そもそも民謡とは、仕事唄や子守唄、年中行事唄など民衆の生活の中で生まれ、歌い継がれてきたものだ。「古い」と思われがちな民謡に新たな光を当てようと、コロナ下の2020年、幼少のころから邦楽器の手ほどきを受け、それぞれジャンルを超えた演奏活動をしていた3人が結集した。

 「47都道府県に名曲があるのがすごい。しかも生活に密着している」とリーダーの佐藤さん。ジャズなど洋楽のセンスも取り入れて作編曲し、ロックコンサートのような照明も使い邦楽への固定観念を軽く吹き飛ばす。一方で「三味線の手とか歌い方、節の回し方とか、本質がブレてはいけないというのが大事なこと」と語る。

 今ツアーでも、芯をしっかり捉えた上でアレンジされた富山県の「筑子節(こきりこぶし)」、山形県の「花笠音頭」、秋田県の「まんず秋田」、徳島県の「阿波踴(おど)る〜渦と成り〜」(阿波よしこの)などが披露され、音楽を学ぶ学生や観客に、日本の伝統楽器の面白さや奥行きを感じさせた。

 ◇現地の民謡とコラボ

 何より今回の収穫は、タイ東北部(イサーン地方)の「モーラム」や、マレーシアの「アスリ」といった現地の民謡との、ワークショップや公演を通じた双方向の交流が実現したことだろう。

 バンコクでコラボしたのはモーラムをルーツに多様な音楽を融合させている歌手、ラスミーさん。タイの民俗楽器も加わった岩手県の「チャグチャグ馬コ」は、クメール語と日本語で交互に歌うというユニークなセッションとなった。原詞からインスピレーションを受けて作詞したラスミーさんは「イサーンの人たちがお米を作っているさまが浮かんだ。大地に祈っている姿がメロディーに合うと思った」と語る。

 タイ民謡「トゥーイコーン」と、ジャズにもアレンジされているミュージカルナンバーの「My Favorite Things(私のお気に入り)」がクロスオーバーするようなインストゥルメンタル曲も、深遠な世界を紡いだ。

 「しょうゆを入れるのか、ナンプラー(タイの発酵調味料)を入れるのかで、(できた料理の)味は国によって違うけど、最初の素材は一緒なんじゃないかという深いつながりをすごく感じた」と浅野さん。

 伝統的な十三弦から音域を広げた二十五弦箏が「現代風にアレンジすることに役立っている」と言う本間さんも、「音楽、音は全世界が認識できる共通言語。それぞれのカルチャーの中で味付けされた音楽が、直線ではなく輪になってつながっていってほしい」と手応えを感じたようだ。

 ◇学生らとワークショップも

 公演前日の10月21日にはバンコク芸術文化センターでワークショップも開かれ、チュラロンコン大学芸術・応用芸術学部の教師や学生約20人も参加した。日本で学んだこともあり邦楽器にも造詣の深いカムコム・ポーンプラシット教授は「楽器は言葉を超えるコミュニケーションツール。伝統楽器を使うMIKAGEはテクニックが素晴らしいだけでなく、日本のことをタイに伝えるアンバサダーになったと思う」と交流の意義を指摘する。

 また同大学院生のスピパット・ポースワンさんは「似ている楽器はあるが、音階は違うという発見が面白かった。『トゥーイコーン』のアレンジもよかった」と言う。日本の音楽をタイの楽器で演奏した経験がある学部生のジョン・ロイドさんは「三つの楽器で、これだけのことができるということに刺激を受けた。これからさらに挑戦していく背中を押してもらった感じがする」と語った。

 ◇“今の力”でピンチをチャンスに

 近年、国内では三味線をはじめ邦楽器の需要が落ち込み、楽器を作る職人も減ってきたという。継承の危機だとして、文化庁も普及を後押ししている。

 佐藤さんは「学校公演にも行きますが、きっかけが大切。見せ方や、聴かせ方、照明など今の力を使って飽きさせないことを考えている。危機といえば危機だが、チャンスといえばチャンス。アレンジを聴いて、原曲を聴いてみたくなったという声も聞く」と可能性を示唆する。

 民謡というジャンルにこだわりながら、国内外でチャレンジを続けるMIKAGE。今ツアーは新しいフェーズへの第一歩となるに違いない。「次の10年、100年につなげられる音楽であればいいなと思っている」というのが3人の共通の思いだ。邦楽器が次世代へ受け継がれるとともに、まかれた相互交流の種が豊かに実ることを期待したい。

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