「いつの間にか人間は自然に愛されなくなったのではないか」。そんなメッセージを込めた作品を描いてきた愛知県東海市の画家、猪口公子さん(76)の35回目の個展が、25日から千葉県いすみ市で開かれている。大学時代からの親友が移り住んだことが縁で、千葉県では初めての個展が実現した。
猪口さんは秋田県能代市に生まれ、岩手大特設美術科で学んだ。岩手県内で美術を教えた後、33歳で愛知県に移って県立高校の非常勤講師を32年間務め、絵画教室も開いてきた。目に映ったものをそのまま描くのではなく、自身の経験や感性に基づいて再構成して表現する半具象的な作品が特徴で、最大のテーマが「自然」。20年前に画壇を離れ、個展で作品を発表している。
いすみ市大原の「いすみレンタルスペースNARUSE」で開かれている個展は、大学の同級生でグラフィックデザイナーの佐藤陽子さん(77)が声をかけたのがきっかけ。埼玉県川口市で会社を経営してきた佐藤さんは8年前、本社の仕事を息子に任せていすみ市に移住した。里山に囲まれて暮らすうちに「自然の中でさりげなく生きている人たちにこそ、公子の絵を見てほしい」と思うようになったという。
会場には20号以下の絵画や陶板、銅版画など約60点が並ぶ。アクリル画「オアシスにて」(F6号)は、砂漠に広げるため、畑の柄の小さな布をミシンで縫い合わせて大きな布にする様子を描いた作品。人間によって砂漠化した土地に再び緑がよみがえってほしいとの願いを込めた。猪口さんは「森に囲まれて育ったことが制作の原点になっている。人間にとって自然ほど尊いものはないということを作品から感じていただければ」と話している。
31日までで午前9時〜午後5時(31日は午後3時まで)。入場無料。問い合わせは佐藤さん(090・8115・8884)。【鈴木泰広】


