■13年という長い月日をかけた壮大な愛の物語「キリエのうた」
同映画は、壮絶な運命と無二の歌声を宿したキリエの音楽がつなぐ13年に及ぶ愛の物語。降りかかる苦難に翻弄される男女4人の人生がドラマチックに交差していく。歌うことでしか「声」が出せない路上ミュージシャン・キリエ役を、映画初出演となるアイナが演じた。アイナは、主題歌を歌唱するほか、劇中曲として6曲を制作し、劇中でもさまざまな歌を披露する。
■アイナ・ジ・エンド、松村北斗、広瀬すず、初参加の釜山国際映画祭
釜山国際映画祭の第1回目に参加した経験のある岩井監督は「僕が映画を作り続けた年数とほぼ重なるように発展してきた映画祭です。自分のなかで兄弟のように、同級生のように感じています。今、改めて新作を持ってきて皆さんに見ていただけるなんて、こんな幸せなことはないと胸が高鳴っています」とその喜びを語った。
釜山国際映画祭が“まるで同級生のよう”だと語る岩井監督とは打って変わり、アイナ、松村北斗、広瀬すずは釜山国際映画祭への参加は今回が初となる。
韓国に来るのも初めてで、10月4日に開催された開会式でレッドカーペットを歩いたアイナは、「アニョハセヨ。チョヌン アイナ・ジ・エンド イムニダ」と韓国語で自己紹介。「初めての韓国が釜山でとてもうれしいです。人生でこんな経験をさせていただけるなんて思ってもみませんでした。何より連れてきてくださった岩井俊二さん、そして映画を楽しみにしてくださっているお客さん、ファンのみなさま、今後ともよろしくお願いいたします」と初めての経験に喜びと感謝の思いを表した。
同じく“初”韓国にして、“初”映画祭と初めてづくしだという松村。韓国にも多くのファンがいると説明されると「個人的な事になるのですが、韓国に僕のことを応援してくださっている人がいることは知っていました」と、韓国にもファンがいることを知っていた様子。
「そういう意味でも楽しみでしたし、岩井俊二監督の名作が新たにひとつ生まれ、それが韓国まで上陸したというのを目の前で見れた興奮と喜びがとても強い韓国訪問となっています。この場にお集まりいただきカムサハムニダ」と、愛らしい韓国語挨拶(あいさつ)で会場を沸かせた。
数々の映画祭に出席してきた広瀬も釜山国際映画祭の参加は初だそうで「韓国は7〜8年ぶりで、前回来たときは別の映画祭だったのですが、こうして釜山国際映画祭に初めて参加できてとてもうれしく光栄に思っています。このように映画を通してお会いできる機会ができてすごく幸せに思っています。『キリエのうた』が少しでも多くの人に届いてほしいと思います」と続けた。
■「映画でもあり、コンサートでもあるような映画」
作品の内容を尋ねられた岩井監督は「音楽の映画です。様々な出来事が起きるのですが、その合間合間にアイナさんがいろいろな曲を歌い綴っていくような構成になっています。映画でもありながらコンサートでもあるような映画なので、両方楽しんでいただけるとうれしいです」と“音楽映画”としての魅力をアピール。
主人公である路上ミュージシャン・キリエを演じたアイナは「キリエは声がうまく出せないのですが、歌を歌うときは声が出ます。魂を乗せる表現方法が唯一、“歌うこと”だけです。そんな女の子の役を演じました」と自身の役柄を説明した。
また、フィアンセを探し続ける青年・夏彦を演じた松村は「決して簡単な人生ではないキャラクターでした。夏彦の人生から目を逸らさずに見てほしいなと思います。人生に色々なことと、色々な意味を持ったキャラクターとなっています」と語る。
謎の女・イッコを演じた広瀬は「とても不思議な女性を演じました。すごく面白い役だったのですが、なかなか掴みづらい女性だと思います。イッコさんにも過去があって、未来があるのだと、ちゃんと感じてもらえるように演じました」とコメントした。
■タオルで口を塞ぎながら作曲していました
グリーティングイベントの前には記者会見も行われ、歌を通して伝えたかったメッセージについて質問されたアイナは「今回、映画のなかで6曲作りました。作る時間がいつも夜中だったので、ギターを片手に、あまり大きな声も出せないので、タオルで口を塞ぎながら作曲していました。そんななかでもキリエは、歌でしか声が出せないので、シャウトや、悲鳴に近いような高音を出し続けなきゃ、誰にも届かないような気がしました」と告白。
「歌がうまいだとか、メロディがきれいだというよりは、魂の叫びや、内臓が出てくるほどの感情の極みだとか、そういうところをしっかり乗せたいというのが今回の6曲のモットーでした。そのなかで1つ、岩井さんが歌詞を書いてくれた曲もあります。一人ぼっちで作ったわけではありません。届いていたらうれしいなと思います」と楽曲に込めた熱い思いを振り返った。
■ものすごく肉厚で、上映時間があっという間だと思う
また、アイナは「地面には底があるんですけど、空のてっぺんは誰も触ったことがなくて、限りがないんですよね。この映画の最後、キリエは不思議と上ばかり見て歌っていました。小林武史さんが作ってくださった歌が、岩井俊二さんが作ってくださった世界が、キリエをそうさせたんだと思います。この映画を観て、少しでも上を見上げてもらえたらといいな、なんて思います」と、今作への思いをコメント。
また、松村は「キリエのうたは13年間の物語だからこそ、様々なことが起こります。ひとりひとりに様々なことが起こって、それは決して小さなことではありません。だからこそ映画として、ものすごく肉厚で、上映時間があっという間だと思います。彼らの人生を観たうえで、明日、明後日について考えていただける作品だと思うので、その魅力を存分に受け取っていただければと思います」と呼びかけた。
広瀬は、「映画って、海を越えてすごく無限大なものだなと、こういう場に来させていただけると改めて実感します。そしてみなさんが想像以上に『キリエのうた』という作品を色々な視点で観られていることを聞けて楽しかったです」と語り、岩井監督は「『Love Letter』という映画を作ってから、韓国のみなさんからよく『お元気ですか』という挨拶をしてもらえるようになって、それ以来、韓国という国を親戚のように思ってきました。おかげさまで病気もせず作品をずっと作ってこられたということそのものが奇跡だなとこの歳になって本当に思います。そして今、改めて日本のすごい才能を持った若い人たちと、相まみえながらこの作品を作りきれて、みなさんのところに届けることができて、本当にそのこと、そのものが誇らしくて、嬉しくて仕方ないです」と明かした。