全世界で20億冊以上出版され、「世界一売れた作家」として認定された“ミステリーの女王”アガサ・クリスティが生涯を通して書き続け、いまもなお全世界で愛される“名探偵ポアロ”シリーズ。本作では、亡霊の仕業としか説明のできない“人間には不可能”な殺人事件に世界一の名探偵ポアロが挑む。
事件の舞台はミステリアスで美しい水上の迷宮都市ベネチア。流浪の日々を送るポアロは、ハロウィーンの夜、霊能者レイノルズの“超常現象”を見破るため、子どもの亡霊が出現するという屋敷での降霊会に参加することに。そこで様々な超常現象が起こり、招待客が人間には不可能と思われる方法で殺害される。
解禁となったのは、“亡霊は存在しない”と言うポアロ(ブラナー)と、“死者の声を話せる”霊能者レイノルズ(ミシェル・ヨー)という正反対の2人が“舌戦”を繰り広げる、重い緊張感のあるシーン。“亡霊は存在しない”と主張するポアロは、真逆の思想のレイノルズに対し、「あなたのような人に興味はない」、「弱い者を食い物にしている」と言い放つ。しかしレイノルズも負けずに「魂は永遠だと信じないのね」と、ポアロの顔を見ることすらせず冷静に応戦。
ポアロは「亡霊がいるなら魂がある、魂があるなら神がいる、神がいるなら意味秩序正義がある。しかし私は多くの犯罪と2つの戦争を見た。人の無関心による“悪”をね。だから言える。神も亡霊も、彼らと話す霊媒師もいない…」と、反論の仕様がないほど聡明にまくしたてる。この舌戦はポアロに分があると思われた次の瞬間、巨大なシャンデリアが轟音とともに“ありえないタイミング”で落下。ポアロは言葉が出ず立ち尽くす一方、レイノルズは“こんなことは起きて当然”と言わんばかりの冷静な表情で、「何のお話でした?」と話を続ける。これまで華麗な推理力で真相を解き明かしてきた名探偵さえも追い詰める状況下で挑むのは、“人間”による殺人事件か?それとも“亡霊”による超常現象か?
クリスティの隠れた名作「ハロウィーン・パーティ」を基に描く本作。“ミステリーの女王”を敬愛する、ミステリー界の実力者たちも本作へ期待を寄せている。「犯人に告ぐ」、「検察側の罪人」、「望み」などの代表作で知られる作家、雫井脩介は、「クリスティの作品は真相が明かされるときの緊張感がたまりません。いよいよというところでは、うっかり犯人の名が目に入らないように栞で先を隠しながら読んでいました。真相に一番衝撃を受けたのは少年時代に読んだ『アクロイド殺人事件』で、忘れられない読書体験です」と熱を込める。
映画化、アニメ化もされた「僕だけがいない街」を代表作に持つ漫画家の三部けいは、「クリスティ作品との最初の出会いは映画『オリエント急行殺人事件』でした。そのトリックや犯行の動機、ポアロの手腕に衝撃を受けて、すぐにクリスティー作品を買うため書店に走りました(笑)。個人的には『ナイルに死す』が好きです。犯人の、大胆で緻密なトリックと心理的なミス。その現場にポアロが存在する事で悲劇的なドラマが成立する構造。自分が作品を作る上でいまも教科書的な作品ばかりです」と敬意を表している。
オール讀物推理小説新人賞を受賞した「池袋ウエストゲートパーク」で知られる作家・石田衣良もお気に入りの作品に、「ABC殺人事件」を挙げ、「アルファベット順に殺される3人の被害者。容疑者のセールスマンが逮捕され落着するが、ポアロは真犯人の存在を確信する。無理のないきれいな推理で明かされる真実と殺人の動機が見事」、そして「なによりクリスティの作品では、探偵も犯人も揺るぎない常識人で、サイコパスなどでなく穏やかな大人であるのが、古風で魅力的です」と作風についてコメントを寄せている。
いまもなお世界中に影響を与え続ける名匠クリスティが生みだした“迷宮ミステリー”。本作では、犯人が人間か亡霊かすらわからない中でポアロすらも翻弄され、ついには彼の命までも狙われてしまう。“予測不能”な迷宮ミステリーの衝撃と結末を劇場で体験してほしい!
文/サンクレイオ翼