『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2023 in EZO』の模様 (C)RISING SUN ROCK FESTIVAL 撮影:n-foto RSR team
開催中の気温はRSR史上過去一だろう。しかしフェス日和ともいうべき晴天に、早くもエゾロッカーたちの興奮度はうなぎのぼり。強い日差しは容赦なく照りつけるが、それを上回る熱で、音楽と太陽を迎え入れた。
初日のステージは、Creepy Nuts、SHISHAMO、サンボマスターらからスタート。マスクから解放され、ステージに向かって遠慮なく歓声を上げ、タオルを振り回し、歌い、踊り、跳ねる。アーティストもそれを受け、全身で音楽を楽しむ喜びがステージの上でも下でも炸裂している。
10‐FEETはSUN STAGE(以下サンステ)で暴れた後、RED STAR FIELD(以下レッド)の東京スカパラダイスオーケストラ(以下スカパラ)のステージにも登場(乱入?)。ほかにもエレファントカシマシの宮本浩次やハナレグミ、マキシマムザホルモンのナヲが登場して、フェスならではのコラボを存分に味わわせてくれた。
EARTH TENTでyamaが、サンステで電気グルーヴがそれぞれの世界で観客を包み込む頃、陽が落ちたレッドに登場したのは、22年ぶりに再集結したTHE STREET SLIDERS。デビュー40周年を迎えた彼らの「のら犬にさえなれない」を聴いていると、円熟や渋味というより、攻めの姿勢を失わないロッカーたちだなと改めて認識させられる。
back numberは「アイラヴユー」に始まり、ヒット曲満載で大盛り上がり。星が瞬く空の下、アンコールの「瞬き」を観客と合唱して初日のサンステを締めくくった。
2日目も朝から晴天。気温もグングン上昇。ケツメイシで上がり、MONGOL800の「小さな恋のうた」を大合唱し、とテンション高くフェス熱があふれているが、浮足立つのを止められない、前のめりの感覚があった昨日とは違い、猛暑の中にもコロナ禍以前のフェスの空気を取り戻したかのような落ち着きが感じられ、やっといつものフェスを楽しむ余裕が蘇ってきたようでもあった。
昨年、コロナで涙をのんだカネコアヤノは、今年元気にレッドで雪辱を果たすことができた。日が少し傾いてHygge STAGEに登場したのは地球三兄弟(奥田民生+真心ブラザーズ)、西日に文句を言いながら、時間帯まで選べる権力は持てなかったと笑わせ、緩やかにライブを展開。ときおり吹く風が少しずつ雲を運んできて、真っ青だった空がオレンジ色に染まるころには、後に続く尾崎世界観が観客に座るよう呼びかけ、夕日に包まれながら弾き語りで優しい声を響かせていた。
同じ頃、レッドでは初出演のスキマスイッチがステージを設営したフィールド一帯すべてを埋め尽くすほどの観客を前に、大橋卓弥の声を隅々まで行きわたらせる。詰めかけた観客と「全力少年」の大合唱し、ラストの「奏」は夕空の美しさと相まって、心に沁みた。サンステのBABYMETALも、期せずして「きれいな夕陽を見て」と観客に呼びかける一幕も。こういう自然と音楽のたくまざる融合が野外フェスの醍醐味でもある。
花火ブレイクの後、サンステにあらわれたのはMISIA。「陽の当たる場所」で10年ぶりの登場。「つつみ込むように…」のハイトーンボイスが響きわたると会場がどよめく。圧倒的な歌唱力ですべてをなぎ倒す勢いに、観客はすっかり引き込まれている。
そして、スペシャルゲストの矢野顕子を迎え、「音楽はおくりもの」「ひとつだけ」「希望のうた」の3曲が、2人の極上のハーモニーで届けられるという贅沢(ぜいたく)を味わった。また、ラストにはサプライズゲストに、Rockon Social Clubを呼び入れ、ラグビーW杯のテーマソング「傷だらけの王者」を披露。圧巻のステージとなった。
夜が深くなると昼間の暑さが静まる。心配されたボーカル・渋谷龍太の喉の調子も回復してサンステに登場したSUPER BEAVER。「真面目に音楽やってます」「持ちつ持たれつの関係がいい」と、どこまでもロックな発言。復活の喜びと感謝、ライブ最高との気持ちがあふれるステージに、気骨のあるバンドマンの姿を見た。
日付が変わり、Hygge STAGEにはkroiが登場して観客を踊らせる。心地よいサウンドとソウルフルな歌声が深夜の空気を揺るがせ、シャレた空間を作り出していた。
このころから時折ぱらつく雨。しかし、サンステのVaundyがステージから放たれれるスモークと光の中「恋風邪にのせて」でスタートすると、夢中でパフォーマンスを貪る。去年のコロナでVaundyの代打を引き受けた藤井風が「Vaundyでーす(笑)」と登場して、Vaundyメドレーを聴かせてくれたのに対し、藤井風の「何なんw」をフルカバーで返礼、これには観客も大興奮。1年越しの恩返しは音楽ファンの胸を熱くするシーンでもあった。
今回リベンジ組はVaundy、カネコアヤノだけにとどまらず、2019年の台風で出演キャンセルになったドレスコーズも、この日def garageのしんがりを務め、明けゆく空に向かい、きっちり雪辱を果たした。
そしていよいよ大トリ。雨も上がり、今年のクロージングアクトはマカロニえんぴつ。「自分を好きになるための旅をやめないで」と「その旅のお供は自分たちが担う」との言葉は、深い歌詞とともにオーディエンスの心に届いたと思う。そして力強いパフォーマンスは朝焼けの空と共に石狩の大地に降り注ぎ、音楽を愛するエゾロッカーたちの心を一つにして2023年のRSRを締めくくった。
8月11日、12日の二日間、晴天の予報はありがたかった。けれども連日30度超えの熱さに見舞われるという、タフなフェスになった。これまでにも過酷なフェスは幾度もあったが、そのたびにスタッフもアーティストも、ロッカー達も鍛えられた。何よりコロナ禍をくぐり抜け、どんな時も音楽は力をくれる、音楽がつないでくれるという思いが一層深まった実感がある。
毎年こうやってフェスを終えるたび、また一つ音楽を愛する理由が増えた気がするのは、毎回素晴らしい音楽体験を積み重ねていっている手ごたえが確かにあるからだろう。そして、もうすでに『RISING SUN ROCK FESTIVAL 2024 in EZO』へのカウントダウンが始まっていることの幸福感が、363日後につながっていることを、エゾロッカーたちは知っている。
文:音楽ジャーナリスト・内記章