舞台は近未来、人体は体内に新たな臓器生み出す…クローネンバーグ監督の新作映画

「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」

 新たな臓器を体内で育て、それを切除する手術を“アート”として見せる――。デビッド・クローネンバーグ監督の新作「クライムズ・オブ・ザ・フューチャー」が、18日公開される。肉体の変容にこだわり、哲学的で先鋭的、衝撃的で異様なホラーを発表し続けてきた80歳の巨匠は、これまでの作品をも超える奇怪極まりない物語を、どのように生み出したのか。(編集委員 小梶勝男)

 「人間はなぜ、体の外側を美しく、内側をグロテスクに感じるのか。どちらも同じ肉体なのに。内臓への審美眼を描きたかった」。それが発想だったと話す。

 舞台は近未来。人類は痛みの感覚を失っている。アーティストのソール(ヴィゴ・モーテンセン)は自らの体内に新たな臓器を生み出し、パートナーのカプリース(レア・セドゥ)に切除させ、その手術をショーとして公開していた。ソールはいつでも内臓を見せられるように腹部にジッパーを取り付け、内臓の美を競うコンテストにも参加しようとする。彼の特殊な肉体を巡り、怪しげな人々がうごめき出す。プラスチックが食べられるよう人類の“進化”を目指す謎の集団。彼らを追う刑事。新たな臓器を秘密裏に管理する政府機関の女性(クリステン・スチュワート)……。

 クローネンバーグが奇想天外な脚本を書いたのは、実は25年前だった。「製作が頓挫していて、最近、プロデューサーに言われ読み返しました。人間の血液中にプラスチックが入っているなんて当時は知られていなかったけれど、現在は常識になっている。今の方が説得力を持つ話なので、やってみようと」。四半世紀前と映像の設定は変わったが、セリフはひと言も変えなかったという。

 前作「マップ・トゥ・ザ・スターズ」(2014年)を最後に、引退も考えていた。「燃え尽きたんです。映画作りの大変さに耐えられなくなってきた。製作環境が変わり、こうした独立系の作品は困難になりました。プロデューサーも、今までで最も資金集めに苦労したと話していましたね」

 肉体の極端な変容を描く「ボディーホラー」の巨匠と呼ばれるが、本人は否定的だ。「人間の肉体は美しく、ホラーではない」と話す。「肉体を描くのは、人間があくまでも肉体的な存在だから。宗教や哲学は、死の恐怖から逃れるため人間を肉体から引き剥がそうとしますが、人間の本質は肉体で、それがリアルだと思う」。その意味で自らを「実存主義者」だと語る。

 食事や睡眠を補助する特殊な装置や、遠隔で操作する手術台。これまでの作品同様、醜怪だが独特の美も感じさせる奇妙なデザインの機械類が登場する。「未来的だとよく言われますが、手術台のデザインはサルコファガスという古代のひつぎがヒント。遠隔手術の考えも脚本を書いた当時からあった。想像というより、その時代に自分が感じ取った世界の反映なのです」

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