角川映画で映画化されたベストセラー小説「人間の証明」や「野性の証明」で知られる作家の森村誠一(もりむら・せいいち)さんが24日午前4時37分、肺炎のため都内の病院で死去した。90歳だった。葬儀は家族葬で行う。後日お別れの会を開く予定。社会派的なテーマとトリックを融合させた作品で支持を集めた。晩年は老人性うつ病を患ったが、克服して精力的に執筆を続けた。
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角川メディアミックスで育った世代の私にとって、森村さんを取材することこそ”記者の証明”だった。「新・野性の証明」の連載が月刊「野性時代」で始まった2008年から、最後の証明「ねこの証明」(17年、講談社文庫)の出版時まで3度、自宅での取材機会を頂いた。ミルクとブラックと砂糖の3層で味わう「珈琲(コーヒー)の証明」でもてなしてくれ、森村誠一謹製ラベルの日本酒までお土産にもらった。
酒に頼る取材が多かった私は「酔って作品のアイデアが浮かぶことはないですか」と聞くと、「飲んで浮かんだアイデアは論理が破綻している」ときっぱり。作家も「基本は取材。好奇心ですよ」という。「取材とは1に現場、2にインタビュー、3に資(史)料です」。「何もしないのも自由の証明」と言いながら、晩年は自身の老いをテーマに書いていた。
「人間の証明」の主人公・棟居弘一良(こういちろう)刑事は、さまざまな俳優が映画やドラマで演じた。松田優作さん、林隆三さん、石黒賢、佐藤浩市、渡辺謙、中村雅俊、竹野内豊、東山紀之…。森村さんは「私のイメージに近いのは(2004年放送のドラマ版の)竹野内豊さん」と話し、原作にはない米国ロケでアクションを繰り広げた松田優作さんにも感謝していた。「映像化にOKを出した時点で、嫁に出すようなもの。好きに料理してくれ、という考えです」。棟居は永遠の40歳前後。これからも、棟居に姿を変えてメディアで生き続けてください。(酒井 隆之)