■最先端の演出と「アイドル」をはじめとするYOASOBIの圧巻パフォーマンス
本ツアーでは、ステージに覆い被さるような“巨大な板”のようなセットが上昇し、バンドメンバー、コンポーザーのAyase、ボーカルのikuraが登場。声出しOKということで轟音のような観客の歓声が響き渡り、序盤からヒット曲を畳み掛けていく。レーザー光線を多用した華やかな演出、LEDを駆使したビジョンでの演出など、演奏や音響はもちろんのこと、全てにおいて最先端技術が活きており、日常とは違う異空間に観客を誘う。
最新曲「アイドル」の有観客でのリアルお披露目は本公演の一つのトピック。同曲が流れるアニメ「【推しの子】」の放送開始は4月12日ということで、初日の愛知公演では最新曲をいち早くライブで味わえる“新鮮さ”が際立った。以降、英語版リリース、海外チャートでの快挙などもあってか、直近の埼玉公演では初日とは一味も二味も違う盛り上がりと高揚感を感じさせた。まさにアリーナツアーを通して “完璧で究極”の1曲に仕上がっていったと言えよう。大きな会場の良さを余すことなく使った演出、そしてそれに勝るほどのYOASOBI、メンバーが作り上げる圧巻のパフォーマンスとステージ。まだファイナル公演が残っているということでライブ本編の紹介はこれくらいにして、もう一つ本ツアーで注目してもらいたいトピックを紹介しよう。それがライブに帯同する「YOASOBI号」の存在だ。
■「旅する本屋さん YOASOBI号」の誕生、その経緯とは
YOASOBIが“小説を音楽にするユニット”として活動しているということで、移動式本屋「BOOK TRUCK」とのコラボ店舗「旅する本屋さん YOASOBI号」が生まれた。初出店は2022年7月16日から3日間にわたって神奈川・横浜赤レンガ倉庫で開催されたイベント「CURRY & MUSIC JAPAN 2022」。この時は「旅する本屋さん YOASOBI号 BOOKS&CAFÉ」としてキッチンカーも併設され、Ayaseとikuraが監修したカレーやオリジナルのクラフトコーラを食することが可能だった。
そんな「YOASOBI号」、今回のアリーナツアーでは全会場に帯同。ツアー初日の日本ガイシホール公演、開場時間前にYOASOBI号を訪れてみるとすでにファンの方の長い列を作っていた。クルマのドアの部分には「旅する本屋さん YOASOBI号」と描かれ、順番にその前で記念撮影。その後、車内に並べられた本を眺めたり、クルマの後部から降りたところに陳列された本をその場で購入したりすることもできる。もちろん見るだけでもOKだ。本を購入したファンに話を聞くと、「この会場に来て、YOASOBI号のことを知って寄ってみました」という方が多かったが、「YOASOBI号は知っていました。地元に来てくれたので嬉しいです」とYOASOBI号を待っていたというファンも少なくなかった。
改めてYOASOBI号のディティールにフォーカスしてみよう。クルマの前には「旅する本屋さん YOASOBI号」の文字とトラが本を背負っているイラストが描かれた看板が見える。その隣には「YOASOBI」のネオンライトとポストが設置され、車内にはウッディな本棚が並び、こちらの上段にも「YOASOBI」のネオンが。ここに並べられている本は、森絵都や島本理生、宮部みゆきらの小説や板垣巴留のコミック「BEASTARS」、清川あさみの絵本シリーズといったこだわりのラインナップだ。
クルマの外に設置された本棚には「夜に駆ける YOASOBI小説集」、YOASOBIと4人の直木賞作家(島本理生、辻村深月、宮部みゆき、森絵都)によるコラボレーション作品「はじめての」、「コミック【推しの子】」などが並ぶ。そのほか、Ayaseのおすすめ本としてエドワード・ゴーリーの「ギャシュリークラムのちびっ子たち」「オズビック鳥」、峰浪りょうの「少年アビス」、グレイソン・ペリーの「みんなの現代アート」、ikuraのおすすめ本として文月悠光の「わたしたちの猫」、宮下奈都の「ふたつのしるし」、有川浩の「クジラの彼」、奈良美智の「ともだちがほしかったこいぬ」も並んでいる。こうやって並ぶ本を眺めていると、YOASOBIが作り上げる世界観を文学という別の一面から覗くことができて面白い。
■YOASOBI号店主・三田修平さんを直撃
愛知公演でファンの方がひっきりなしに訪れる忙しい合間を縫って、店主・三田修平さんにお話を聞かせてもらった。「夏フェスやファンクラブイベントに出店するためにYOASOBI号をやりたいとお声がけいただいたのは2022年の頭くらいでした。そこで条件などを伺わせていただいて、『こちらもこういった形ですとご一緒できると思います』という感じでYOASOBI号が実現しました」と三田さん。「YOASOBIさんは本との関わりが深いですし、YOASOBIさんだからこそ通常の書店とのコラボでは生まれないような結び付きもあるんじゃないかなと思ったんです。それで興味がありましたし、二つ返事でお受けしました」とYOASOBIとBOOK TRUCKの相性の良さを感じたという。
会場でYOASOBI号を訪れてくるのはもちろんYOASOBIのファンの人たち。「若い方たちの“活字離れ”というのを聞いたりしますけれど、僕は本との出会い方次第だと思うんです。きっかけがあれば本に興味を持ってもらえると思っていましたし、実際、購入してくださる方が思っていた以上に多いんです」と、コラボによる良い効果を実感している様子。実際、話を聞かせてもらっている間も、20代・30代のファンだけでなく、中高生のファンの人たちも何冊かまとめ買いしていくのを目にすることができた。
「若い方で『宮部みゆきさんの本、初めて買います』という方もいらっしゃいましたし、きっかけになっているんだとしたら、それは本当に嬉しいです」と顔をほころばせる三田さん。お勧めの作品を聞いてみると「作家さんの名前を知っていてもどれを買ったらいいのか分からなかったりするみたいで、『はじめての』とか、YOASOBIさんと関わりのあるアンソロジーはとっかかりとしていい1冊だと思います」と太鼓判を押した。昨年との変化については、「昨年は10日ぐらい出店したと思うんですが、関東圏が多かったので来たくても来られなかった方も多かったみたいです。名古屋は今日が初めてなので、初めて訪れてくださる方がほとんどだと思いますし、YOASOBI号で記念撮影をするなど、楽しんでもらえているようで良かったです」と笑顔で語っていた。
■埼玉公演ではAyaseとikuraがYOASOBI号をサプライズ訪問
直近の埼玉公演では、さいたまスーパーアリーナの会場入口近くにYOASOBI号が展開され、これまで以上に長い列ができていた印象だ。三田さんも「愛知公演以降、YOASOBI号のことを知ってくれている人がどんどん増えてきていまして、今日はこれまでで一番広い会場ですし、YOASOBI号に来られる方の数もすごく多いです」と大忙しだ。さらにこの日はサプライズでAyaseとikuraがYOASOBI号を訪問し現場は大盛り上がり。YOASOBI号の展示を二人でじっくり眺めたり、店主の三田さんとの記念撮影をしたり。即席の撮影会のような状態にもかかわらず、2人はファンに向かって手を振るなどサービス満点。この様子がSNSで拡散され、その日のYOASOBI号の訪問者が爆上がりしたことは言うまでもない。
ツアーラストとなるぴあアリーナMMでもYOASOBI号は出店中だ。今後もライブ会場に登場する予定なので、ぜひライブに参加される方は一度立ち寄ってみることをお勧めしたい。ちなみにYOASOBI号で本を購入するとオリジナルのしおりとステッカーも付いてくる。YOASOBIの二人が勧める“本”の数々、そしてYOASOBIの世界観を音楽、文学の両面から感じられるYOASOBI号の空間をぜひ一度触れて、体験してみてはいかがだろう。
◆取材・文=田中隆信