「テレ東プラス 人生劇場」は、現役地下アイドルのTさん(仮名)を取材。前編では、ギャラ事情からハラスメント問題まで話を聞いたが、後編では、メンバーとファンの関係性など、地下アイドルの裏事情をさらに深掘りする!
精神的に病んで過呼吸になってしまった子もいました
――地上アイドルと地下アイドルの違いは、どこにあると思いますか?
「テレビに出ているかどうかやライブ会場の大きさなど、単純に規模の差もありますが、地下の方がお客さんとの距離感が近く、一緒に盛り上げてくれる雰囲気があります。
また、地上アイドルは歌もダンスもうまくてビジュアルがいい子が人気ですが、地下では活躍するまでの過程も重視されるので、未熟な子の方が応援されやすいです。お客さんは『歌もダンスもまだ上手じゃない子を支えたい』という方が多いので、頑張って練習すればするほど、お客さんが離れてしまうという側面もあります。
そのため、頑張っていない子の方が得しているように思えて、メンバー同士がぎくしゃくすることも。女の子ばかりの世界なので、バチバチすることは多いですし、お客さんに”推し変”されると、『客を取られた』という感情にもなります。
一応、『他のメンバーのファンには過度な営業をしない』という暗黙のルールがありますが、新人やあまり賢くない子は、それを無視してやってしまって、メンバーに嫌われることもあります」
――具体的には、どのような方法で他のメンバーからお客さんを取るのでしょう。
「他のメンバーのマイナスイメージになるようなことをわざとバラして、自分のお客さんにしようとするんです。でも、そういうやり方で幸せになった子を見たことがありません。一時的にお客さんが増えても、長く続かないし、そのうち本人が疲れちゃったり嫌われて干されちゃったりして、絶対にいい結果になりません」
――なるほど。事務所との契約条件も地上アイドルとは違うと思いますが、高額なレッスン費を取られることもありますか?
「『研究生だから』という名目で、レッスン費を請求されることはあると思います。また、契約満了ではないタイミングで辞めると、『契約違反』という名目でたくさんお金を請求されることがあるそうです。そのため、円満に辞めるまで、半年〜1年ほどの時間がかかると思います。
辞めたいという希望が通らず、耐えられなくて突然いなくなり、実家にお金を請求された子もいました。それでも、元気なうちに飛ぶ(いなくなる)のならまだいいです。私の周りには、いじめやパワハラ、セクハラでボロボロになってしまい、精神的に病んで過呼吸になってしまった子もいました。しばらくして会ったら元気になっていたので良かったんですけど、やはり事務所にお金を請求されたようで…。金額は100万円くらいで、親が払ってくれたそうです」
――精神面だけでなく、金銭面でも大変な思いをすることがあるんですね。かなり過酷な世界ですが、アイドルをやっていて嬉しかったことはありますか?
「もともと芸能界のお仕事に憧れていましたし、根本に『人を笑顔にしたい』という気持ちがあるので、お客さんが笑ってくれたり元気を届けられたりした瞬間は本当に嬉しいです。お客さんの前でライブをしてお金が発生するサイクルを自分たちで作れるようになったのも、すごく嬉しかったです。今の私の人生を支えているのは、やはりアイドルの活動です。ストレスも大きいですが、やって良かったと思っています。
地下アイドルの世界は、ちょっとずる賢いくらいのほうが効率よく上に上がれる、真面目が損をする世界かもしれません。義理や人情にこだわってしまうと、のし上がるのに時間がかかる。だけどやりがいはすごくありますし、ライブも楽しい。アイドルの経験が他の仕事で生きることもあると思います。
あと、久しぶりに会った友達に『キレイになったね』と言われることもあります。人に見られる意識を常に持っているので、垢抜けるのかもしれません」――ファンとのエピソードで、印象に残っていることは?
「一時期、身体を壊して休んでしまったことがあるんですけど、私が居ないのに、ずっと私の色のペンライトを持ってライブに来てくれていた人がいたんです。代わりがいくらでもいる世界なので、休むのって結構不安なんですけど、待ってくれる人がいる、帰る場所があるというのはすごく嬉しかったですね。復帰してからの誕生日のイベントでは、会場が自分のカラーのペンライトで埋め尽くされ、ファンの方がいろんなものを用意してくれて…そういう光景には満たされるものがあります」
――推しが喜んでくれたらファンの方も嬉しいし、そんな風に距離が近いのも地下アイドルの魅力ですよね。
「そうですね。やはり距離が近いので、事務所に禁止されていても、ファンと個人的に連絡先を交換して、つながるアイドルもいます。普通はファンがアイドルに猛アタックすることが大半だと思いますが、逆にアイドルがファンの人を好きになってしまうというパターンです。事務所を辞める直前のタイミングでコンタクトをとって、辞めてからつながる子もいました。
私はファンの方をそういう目で見たことはありませんが、若くて優しいファンはそれだけでかっこよく見えることもあって、好きになってしまう気持ちはちょっとわかります。清潔感がある人も、かなりポイントが高いです。
ファンの中にも、つながることを狙って応援する人はいますし、アイドル側も普通に異性として好きになってしまう子もいれば、”色恋営業”じゃないですけど、戦略的にやっている子もいると思います」――でも、ファンと個人的につながると、トラブルになることもあるのでは?
「実は、個人的につながっているかどうかに関わらず、ライブ会場でファンとトラブルになるケースは、結構多いです。何か気に食わないことがあると、人のせいにして自分を正当化する方もいて…。アイドルも一人の女の子なので、理不尽なことを言われたら傷つきます。
時々、いい大人が感情的になって、10〜20代の子に声を荒げるということもありますが、成人男性が大きな声を出すだけで、女の子にとっては恐怖。ファンとしては『自分はそれだけ応援しているんだ』という気持ちがあるのかもしれませんが、人に対してちゃんと気遣いができる人なら、アイドル側も邪険にしません。アイドルも人間なので、思いやりを持って接してほしいです。
そしてアイドル側も、ファンに対して『自分に時間とお金を割いてくれている』という感謝の気持ちを持つべきです。お互いに思いやりをもって、一緒に楽しめたらいいのにと思います」
――最後に、Tさんの今後の展望を教えてください。
「事務所に入るとどうしても視野が狭くなりがちで、事務所の中の世界が全部になってしまい、私も一度精神的におかしくなってしまいました。私はたまたま相談できる相手がいて、『この事務所はおかしい』と気づくことができましたが、もしも気づけないままだったら、今もここで結果を残さなきゃと思い込んでいたと思います。
でも、地下アイドルになったことを後悔はしていません。のし上がっていくのは難しかったけど、いろんな人と出会えたし、事務所に入って仕事をするという経験ができたので、結果的には所属して良かったと思っています。
結局どこの事務所にもメリット・デメリットがあって、相性もあると思います。私は今の事務所に疲れてしまったので辞めますが、一度フリーになっていろんなお仕事に挑戦し、最終的には、芸能のお仕事だけで生活するのが目標です。裏方のお仕事にも興味があるので、勉強してみたいです」
地下アイドルを続けて得たものはゼロではないが、今の環境では精一杯頑張っても、返ってくるのは1割くらいの状態だと話すTさん。ファンに夢を見せてくれる地下アイドルという仕事は、想像以上に過酷なようだ。
(取材・文/みやざわあさみ)