東出昌大（ひがしで・まさひろ＝３４）の主演映画が相次いで公開される。「天上の花」（片嶋一貴＝かたしま・いっき＝監督）は、すでに全国で順次、上映が始まっている。６日からは「とべない風船」（宮川博至＝みやがわ・ひろゆき＝監督）が順次公開され、３月１０日からは「Ｗｉｎｎｙ」（松本優作監督）が、全国で一斉に上映される。
「３作とも精いっぱいやったといえるので、見ていただけたら、うれしいです」
撮影は「Ｗｉｎｎｙ」「とべない風船」「天上の花」の順番で行われた。
「Ｗｉｎｎｙ」では、平成１０年代半ばに社会問題化したインターネットのファイル共有ソフトの開発者で実在した人物を演じ、「体重をめちゃくちゃ増やしたんですよ」と明かす。
そこから２週間で減量して、「とべない風船」の撮影に臨んだ。
「ちょっとしんどかったけど、一気に太ると〝逆リバウンド〟で一気に痩せられるんです。それに、『とべない風船』は漁師の役だから、そこまで痩せなくてもよかった」
「とべない風船」で演じた、主人公の憲二は瀬戸内海の小島の漁師だ。豪雨災害で妻子を失い、生きる希望を失っている。憲二の家の庭には、飛ばないように縛り付けられた黄色い風船が一つ風に揺れている。そこには、憲二のある願いが込められている。
広島出身の宮川監督が、自身も経験した平成３０年の西日本豪雨の災害の記憶を風化させまいと、自ら脚本も書いた。
東出は撮影前に瀬戸内の豪雨被災地を訪ね、被災者らに話を聞いた。また、東出によれば、宮川監督は若い頃、親友を交通事故で亡くしており、その悲しみも映画に重ねたという。
憲二は、大きな喪失を抱えている。
「人生のどん底にいる重い役。被災された方、あるいは過疎化が進む漁村の皆さん、そして監督。お話をうかがった、さまざまな方の思いを背負って撮影に臨みました」
東出は令和３年の主演作「草の響き」（斎藤久志監督）に言及し、「あの主人公は、心を病んで自死を試みるんですよ。憲二とどちらが苦しいか。ただ、人は心を病むこともあるし、どうしようもない状況に陥ることもある。だけど、決して死を選んではいけない」と語る。
東出は３年前に離婚し、私生活が大きくクローズアップされたこともあった。
「人生は何があるか分からないと最近、思うんです。その経験は、役のヒントになることもあります。僕も良きにつけ悪しきにつけ、自分のしくじりも含めて、さまざまな経験の中で思ったことが役に生きています。役者は因果な商売です」
やがて憲二は、仕事の悩みを抱えて島に戻ってきた凛子を通じ、凛子の亡き母ら島の人たちが憲二に寄せていた温かい思いを知る。
凛子を演じるのは、三浦透子（とうこ＝２６）。米アカデミー賞作品「ドライブ・マイ・カー」（濱口竜介監督）で広く注目され、ＮＨＫ大河ドラマ「鎌倉殿の１３人」などにも出演した演技派だ。
東出は、古くからの知り合いだという。「キャリアを重ねた彼女とご一緒できるのを楽しみにしていました。撮影の合間に、『どうすれば普通の人を、普通に演じられるか』を話し合いました。彼女が水を飲む場面があるのですが、それがもう極めて自然で、ああ、すごいなと思いました」と楽しげに振り返る。
映画は終盤、凛子も憲二も止まっていた人生の時間を再び動かそうとし、希望に満ちて終わる。
「瀬戸内海の空の下でキラキラと輝く海みたいな映画です。瀬戸内海の〝多島美〟を見たような晴れやかな気持ちになれるはずです」
取材が終わると「山へ帰ります」という。現在、北関東の山中の小屋で自給自足の暮らしをしている。もともと、狩猟を趣味とするなど山の暮らしとは縁があった。
「東京は家賃も高いし、そもそも撮影で京都にいたかと思えば、その後は八王子…と、役者は定住性のある仕事じゃない。今の生活は、休日をずっと山で過ごしているようなもの。このあんばいが、僕にとってはいいんです」
「半農半Ｘ」という言葉を最近知ったという。別の仕事をしながら農業に携わることを指す言葉だ。
「僕は『半Ｘ』の部分で役者として金銭をいただいているけれど、生きることの主軸は半農の部分のほうにあるんです。生きるとは、どういうことかを考え続けて生活しています」
一方で、「最近、打席に立たせていただいたら、フルスイングできるようになった」と語る。役者として非常に充実しているという。
「若い頃は頭でっかちで、『うまくできなかった』で終わる作品も多かった。最近は、『やりきった』と自信をもっていえることが増えました。役は、もちろん、すべてが難しいのですが、その中でもさらに難しい役が来るのが楽しみです」（石井健）
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「とべない風船」は６日から全国順次公開。１時間４０分。
