兵庫県尼崎市と繊維大手「ユニチカ」は、レンガ造りの市内最古の洋風建築「ユニチカ記念館」(東本町、現在休館中)を現地保存し、活用していくことで覚書を締結したと発表した。老朽化や耐震不足による解体も検討されたが、市の近代工業の発展に寄与した貴重な歴史遺産として、後世に受け継がれることになった。
記念館は、ユニチカの前身「尼崎紡績」の本社事務所として1900年(明治33年)に建設された。レンガ造りの2階建てで、上部がアーチ状になった縦長窓や煙突、車寄せを備えた外観などが特徴。経済産業省の近代化産業遺産で、県の景観形成重要建造物に指定されている。
2020年にユニチカが耐震補強に多額の費用がかかるため解体も視野に検討していることが明らかになると、県と市、ユニチカの3者で保存と活用に向けた協議が始まった。
一時は県が同社に対し、記念館の寄贈を受けた上で、県有地への移転保存を提案したこともあったが、今年7月に方針を撤回。市は20年12月に市議会で記念館の保存活用に関する請願が採択されたことを重視し、「この場所から尼崎の近代工業化が始まった歴史的意義がある」などとして、保存と活用を決めた。
今年10月31日に締結した覚書では、市へ記念館を寄贈してもらった上で、市が敷地約3000平方メートルを購入。保存活用に使うための費用はユニチカ側が市に寄付するよう求めた。市によると、土地の購入金額は路線価を基にすると約4億円以上といい、今年度中に記念館の取得に向けた詰めの協議を進めるとしている。
市立歴史博物館の伊元俊幸館長は「市民と一緒に守り伝え、新しい尼崎のシンボルにしたい」と話した。