互いに「理解度が高い」と語る山田裕貴×松本まりかにインタビュー。“愛の輪郭”見せた『夜、鳥たちが啼く』

互いに「理解度が高い」と語る山田裕貴×松本まりかにインタビュー。“愛の輪郭”見せた『夜、鳥たちが啼く』

『夜、鳥たちが啼く』で意外にも映画初共演となった山田裕貴と松本まりか

(MOVIE WALKER PRESS)

2022年は『愛なのに』『女子高生に殺されたい』『ビリーバーズ』とジャンルの違う良作を次々に発表し、加えて脚本家としても参加した今泉力哉監督の『猫は逃げた』(22)、安川有果監督の『よだかの片想い』(22)が公開された城定秀夫監督。世界を見渡してもこれだけの活躍は特筆すべきトピックであるが、まさに大トリ的なポジションで公開されるのが『夜、鳥たちが啼く』(公開中)である。長年交際した女性に去られた小説家と、予期せぬ形で離婚し、シングルマザーとなった女性。2人には互いを気遣う理由が存在するが、互いに慰めあいたくないプライドもあった――。

『海炭市叙景』(10)、『そこのみにて光輝く』(14)、『君の鳥はうたえる』(18)など、いまや日本映画におけるいちレーベルにもなっている北海道函館出身の作家、佐藤泰志の小説の映画化に、新たに加わったのが城定監督の『夜、鳥たちが啼く』である。若くして脚光を浴びるも、その後鳴かず飛ばずで喘いでいる小説家、慎一役を演じるのは山田裕貴、突然の喪失感を見知らぬ男たちとの遊びで埋める裕子役を演じるのは松本まりか。2人の抱える切実な痛みが、どのように交差したか。山田と松本に聞いた。

■「役の時間を生きるみたいなことを純粋にやっていたら、 映画ができたっていう感じでした」(山田)

――映画は、慎一が、裕子と幼い息子に自宅を提供し、自身は同じ敷地内の小さなプレハブ小屋で生活をスタートさせるところから始まります。2人とも最愛のパートナーと別れたというタイミングですが、お2人は演じる役の抱える喪失感にはどうアプローチされましたか?

山田「僕の演じた慎一は結婚を前提とした同棲していた女性と別れるのですが、僕も別れの経験はないことはないので、自分の経験の中にあった感情を引っ張り出してくる部分はありました。感情をゼロから作っていくっていうアプローチの仕方じゃなくて、過去を思い出すなか、感じ出てきたものを出すみたいな部分があったかもしれません」

松本「慎一と裕子のような曖昧な関係は、想像するのも難しかったですし、自分の中に落とし込むのはもっと苦労しました。でも、現場に入って、山田くんの慎一と過ごしていると、慎一もアキラも人間力がすごくて。無邪気に生きている感じが。いろいろ思考して、いろんな制約を自分に課していた私としては、『なんだ⁉この生き物たちは』って思ったんです。すごく自由で、楽しそうで、笑っていて、そういう自分の頭ではわからなかったことが現場でわかって、なんかだかとても幸せを感じました」

山田「普通ラブシーンを演じると、カットがかかった瞬間、演者同士が離れ、距離を取ります。なので、次の場面で、また気持ちを紡いでいかなくてはいけないのですが、まりかさんは、ここにいたほうがこの撮影が円滑に行くという考えのもと、カメラが回っていない間も、ずっと役の時間が流れている雰囲気を保つためそばにいてくれた。すごく助かりましたね。

ラブシーンって特に気を遣う部分ですけれど、気を遣わなくていい雰囲気を作ってくれていた。別にたくさんのことを話したわけじゃないけど、これまでの長い年月の中のやり取りで、まりかさんに“あ、この人、多分、感覚一緒だ”って思ったことがあって。今回、役の時間を生きるみたいなことを純粋にやっていたら、 映画ができたっていう感じでした。裕子がまりかさんで本当によかったと思います。僕の思考に対する理解度が圧倒的に高い人なので、安心感がありました」

松本「山田くんも、私への理解度がすごく高いよ!映画はこれが初共演ですけど、ドラマではこれまで何度か共演してきて、すごいおもしろい人だって思っていて。この現場で会った時は、私自身いろんなことに行き詰まっていたというか、幸せがなにかわからなくなっていたし、なんのために仕事してるのかもわからないような状態だったんです。この状況を感覚的に理解してくれる人はいないし、誰にも言えないし…。現場で山田君に会った時、『あ、自分と同じ目をしてる人がいる』『この人、同じ状態だ』って理解できたというか」

■「性的な関係を越えて、生きるよすがだと感じたんです」(松本)

――慎一と裕子の関係性にはお互いの同情心や、傷の舐めあい的な要素もあるかと思いますが、お2人はどう感じられましたか?

山田「最初は傷の舐めあいだったような気がします。でも、傷の舐めあいって意外と大事。 傷を舐めあえる相手ってなかなかいないですから。そういう話をしましたよね?『大丈夫ですか?』『大丈夫みたい』的なやりとりを」

松本「傷の舐めあいってマイナスに聞こえそうですけど、それをできる相手って限られているというのは同意だし、すごく必要なこと。実は脚本を読んだ時は、傷の舐めあいから始まる2人の交わりについては、素直に理解出来なかったんですけど、いざ撮影した時、深い部分で強く求め合って、触れるっていうことは、性的な関係を越えて、生きるよすがだと感じたんです。あのシーンをきっかけに、やっぱり、慎一と裕子は変わるわけだし、鳥も啼くわけだし。愛の輪郭が見えたような気がします」

■「『なんだ、これは!?』っていう味わったことのない幸せな時間を感じさせてもらいました(笑)」(山田)

――城定監督の演出はどのように感じましたか?ほかに、撮影中に感じ入ったシーンはありましたか。

山田「最初の恋人と同棲している時、慎一が彼女の働くスーパーの店長への猜疑心を募らせて、殴りに行くシーンがあるんですけど。僕、これまでいろんなアクション映画に出させてきてもらって本当に良かったなって思いました。ワンカットワンシーンの長回しで、一連のアクションにカメラも必死に追いかけてきて、『あ、自分の動きでカメラの視界を被らせそうだな』と思ったら、追いかけている勢いのまんま、表情にカメラがフォーカスできるような動きを自然にとって。

俯瞰で冷静に考えながら、芝居としてはマジに殴っている顔をしていなきゃいけないという、まさに“冷静と情熱の間”じゃないですけど、かなり計算して演じることができたんです。もちろん、カメラマンさんがうまく動いてくれた部分もあるけど、『長回しで行きますよ』って城定さんが言ってくれてチャレンジできたから。もし、あそこで失敗してテイクを7回も8回も重ねるようなことになったらもう悲惨なことになっていたけど、幸い2回でOKが出たんです。完全な八つ当たりで、 自分にとって邪魔な店長を排除したい。ただ、それだけの気持ちを表現できたと思います」

――裕子の息子役を演じた森優理斗くんは、NHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」では坂口健太郎さん演じる北条泰時の幼少期役で話題になりましたが、今作でも実にナチュラルな演技をしています。現場でのやり取りで覚えていらっしゃることはありますか?

山田「普通に会話しているなと感じさせてくれるのがやっぱりすごいなって思いました。いつもは、『マジで、セリフ覚えなきゃ』って思いながら台本を読むんですけど、この作品は、俺、いつセリフを覚えて、あんなふうにしゃべっていたのかなと思う。それは、普通に会話している感覚でいられたからで、それはまりかさんと、優理斗と一緒の時に思いました」

松本「優理斗は本当にすごくて。この作品の中で裕子と慎一をくっつけたのは、やっぱり優理斗演じる息子の存在が大きい。2人には、近づきたいんだけど近づけないという心のガードがあるじゃないですか。また失敗できないですから。でも撮影の中盤だったと思うんですけど、優理斗を間に挟んで3人で歩いている時、突然、私たちの手をくっつけたんです。2人のぎこちない空気感を感じ取って、慎一も裕子も自分からはつなげなかった手を、アキラがつなげてくれた。そこから撮影の2週間、2人の距離感を感じ取っては、何度もくっつけようとするんですよ。子どものパワーで。その健気さに心を打たれて…」

山田「いやあ、『なんだ、これは!?』っていう味わったことのない幸せな時間を感じさせてもらいました(笑)。でも、やっぱり裕子と慎一は距離感が絶妙なんだと思うんです。近すぎて、その前の関係がダメになった2人だから、近すぎない距離がいいんだろうなって。こういう距離感でやっていける関係もあるんだと思う」

松本「求めすぎない関係性というのかな。そういうことをこの映画で感じていただけたらうれしいです」

取材・文/金原由佳

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