昨年12月に放送した「河瀬直美が見つめた東京五輪」(NHK・BS)に放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送倫理検証委員会が9日、「重大な放送倫理違反があった」とする意見書を発表した。
同作は東京五輪の公式記録映画を監督した河瀬直美氏を中心にしたドキュメンタリーで、国立競技場の外にいた男性を取材し、本人が五輪反対デモへの参加予定は否定したにもかかわらず「五輪反対デモに参加しているという男性」「実はお金をもらって動員されていると打ち明けた」という字幕を付けて放送。放送後、SNSなどで字幕の不自然さを指摘する声や真偽を問う声が上がり、NHKは2月、“字幕の内容は誤り”と認めていた。
BPOは「単なる字幕の付け間違いという問題ではない」とし、「放送の結果、番組はデモの参加者はお金で動員されており、主催者の主張を繰り返す主体性のない人々であるかのような印象を視聴者に与え、デモの価値を貶(おとし)めた」と記している。
■「また五輪? また河瀬監督?」の声
同日、NHKは「取材、編集、試写の各段階に問題があり、デモや広い意味での社会運動に対する関心が薄かったという指摘や、取材相手への配慮や誠意を欠いていたなどという指摘を真摯に受け止めます」とコメント。ネット上では、「東京五輪公式ドキュメンタリー映画の河瀬監督を追うドキュメントが偽装って……真実はどこ?」「また五輪? また河瀬監督?」という声も上がっている。
同志社女子大教授(メディア論)の影山貴彦氏はこう言う。
「五輪反対派をおとしめるような内容を放送したことは、歴史の捏造に加担する罪深い行為。これだけBPOが綿密な調査の上で厳しい意見書を発表したにもかかわらず、NHKのコメントはあまりに紋切り型。視聴者に対する謝罪が抜け落ちている時点で“真摯”とは言い難い。NHKは事態を軽視し、お茶を濁しているとしか思えない。以前は早々に謝罪するのが最善策と言われていましたが“謝罪しない”“謝罪した跡を残さない”のが炎上回避策ととらえているとしたら大いなる間違い。NHKのニュースでこの件を扱い、NHKのコメントを神妙な面持ちで読み上げていたが、これは謝罪ではないし、アナウンサーに謝罪を任せるような態度も改めるべき。また、こういう重大な問題に我々視聴者も関心を持たなければならないでしょう」
最初から最後まで醜聞まみれの東京五輪からはレガシーどころか腐臭が漂っている。


